怯える能無し

 他愛ない会話のなか、それは突然頭を揺さぶる。
「だから違うつってんだろ」
 それは深い意味など持たない会話だった。いつものじゃれ合いの会話。言葉自体に反応したわけではない。表情からなにかを感じたのでもない。ただ、

 ただただ不安になる。

 胸から全身に伝わり、ともすれば泣き出しそうになるのを必死でこらえて、悟浄に抱きつく。どうすればこの漠然とした不安から逃れることができるのか、ちっとも判らない。予想すらつかない。
 唯一判るのは、また大切な人を失ってしまうのではないかと、怯えていることだ。

 刺客を送り込んでいながら、自分から戦闘をしかけておきながら、こんな不安を抱くのは矛盾している。自分は殺す気はないと、脆弱な刺客ごときでは死なないと判り切っているのに感じる不安。
 これは相手を信頼していないということだろうか。

「焔?」
 急に黙り込んだ自分をいぶかしげに覗きこんでくる。
 
 必死にしがみつき、泣くことしか能のないおれを、彼は疎んじるだろうか?


浄焔。
誰かこの不安から、救い出してくれ。

なんて、図々しいにもほどがあるだろうか。
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